読書2008_環境

地球と一緒に頭も冷やせ!

地球と一緒に頭も冷やせ!

地球と一緒に頭も冷やせ!

ホントは同著者の「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態」を読もうと思っていたのですが、分厚くて挫折したので、先にこの本を読みました。
まず、環境問題に対して敏感なヨーロッパからこういう本が出てきたというのは興味深いですね。


この本においての、著者の主張はこのようにまとめられるかと思います。

  • 温暖化問題は政治的なテーマとなってしまい、本当に必要な対策をフラットに検討することができなくなってしまっている。
  • 人間や環境にとって、どうするのが一番良いかデータに基づいた冷静な議論をしよう。
  • その上で、なし得る最善のことからやっていこう。

環境問題は重大なテーマです。それだけに、単なるポーズ*1ではない、有効な対策を打つ必要があるでしょう。そのために、政治的なネタとするのではなく、冷静に議論しようという著者の主張は頷けるものがあります。
その上で、個別に「地球温暖化の脅威は誇張されている。」「京都議定書で定められたCO2削減は、コストが大きく便益が小さい方法である。」ということが主張されているのですが、正直なところ、私にはその妥当性を判断することはできませんでした。裏付けとなる研究が丁寧に示されており、著者の態度はフェアであるようには見えます。ですが、より詳しく文献をたどってその主張の裏付けをとるのは私の能力をはるかに超えますので、著者への漠然とした信頼感の表明以上の支持はせずにおきます。


最後に文句を1つ。
注釈は脚注か傍注にして欲しかったです。1,000を超える注を巻末につけられたって、いちいち参照してられません。単に参考文献を示しているだけなら巻末でも良かったのですが、コメントや補足である場合も多く、付き合わせて読むのが大変でした。ってか、途中からあきらめました。

*1:身近な例で言えば、エコバッグなんかは、環境問題対策としては、ポーズ以外のなにものでもないと思います。

読書2008_政治

さらば財務省!

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

小泉改革の中の人の証言として、とてもおもしろい本でした。小泉、竹中が目指していたものがなんだったのか、本の中で主張されている理屈も筋が通っており、説得力があります。
ただ、あくまで片方からの証言であることには注意が必要でしょう。全体を通して、利権を守ろうとする財務官僚とそれに立ち向かう著者達、という構図で描かれていますが、こういうお話の常として、相手側にも言い分があるはずです。この本は、基本的には信用できると思っていますが、相手側の反論も聞いてみたい気がします。

読書2008_歴史

大君の通貨

幕末「円ドル」戦争 大君の通貨 (文春文庫)

幕末「円ドル」戦争 大君の通貨 (文春文庫)

幕末の通貨を巡る攻防についての小説です。小説ですので、史実と創作が入り交じっていますが、話の骨組みの部分は史実でしょう。
金貨対銀貨の交換レートが日本と海外で違っていたことによる金の流出が何故起こったのか、日本の水野忠徳、アメリカのハリス、イギリスのオールコックと行った人物を中心に、非常に説得力のある形でまとめられており、オススメです。
以下、要点だけ抜き出してみますので、興味を持たれたら是非読んでみてください。。

  • 海外では金貨、銀貨の価値は地金の価値と等しかった。
  • 日本では銀貨に刻印を打つことにより、地金の3倍の価値を与えていた。つまり、銀貨は信用によって価値を高められていた。
    • 相対的に、金貨の銀貨に対する価値は1/3になっていた。
    • これは、当時の世界では考えられないことであったが、幕府が銀の産出を独占し、かつ外国との交易が限られているという特殊な状況下で可能となっていた。
  • 英米の外交団は、ドル銀貨と一分銀を重量に従った交換レートを主張し、それを押し通した。
  • その結果、日本で安く仕入れ、海外で高く売りさばくことが可能になり、大量の金が日本から流出した。
  • 水野忠徳はこの仕組みを承知しており、何とか防ごうとしたが果たせなかった。
  • ハリスはそれを知っていて私的な殖財を行った。
  • オールコックは後になってそれに気付き、その著作でハリスを告発した。

読書2008_社会

メディア・バイアス

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

メディアに溢れる怪しい健康情報の現状を、多くの事例を軸に解説してある本です。この本は、超・オススメです。
結論としては、捏造やトンデモ、リスクとベネフィットを無視した報道も多いから自衛しましょう、ってことに尽きるのですが、そのための考え方も丁寧に書かれています。いろいろと知らなかったことが多くて、目からウロコがぼろぼろ落ちました。
いろいろ学ぶところの多い本なのですが、一点だけ食品の含まれる化学物質の量についての話にだけ言及しておきます。最後に目次も載せておきますので、興味を持たれたら是非読んでみてください。

食品に含まれる化学物質(農薬、食品添加物等)について
  • 基準値の決め方
    1. 動物実験によって無毒性量(一生毎日摂取しても一切影響が出ない量)を求める。
    2. 人が動物よりもその物質に対して感受性が高い可能性を考慮し、1/10をかける。
    3. 幼児や老人、その他個人差があることを考慮し、さらに1/10をかける。
  • 結果的に、無毒性量の1/100が基準値となっている。

基準値の何倍の化学物質が検出された、とかいう報道をみても、即、健康被害云々とヒステリックに騒ぐのはナンセンスです。
何故そのようなことが起こったのかについての究明や、再発防止の取り組みは必要ですが、それがどの程度の問題なのか、というのは常に意識するべきでしょう。
思うのですが、農薬や食品添加物って必要だから使ってるわけですよ。もちろん、不要なものはない方が良い*1に決まっているのですが、十把一絡げにそれらを否定するのは意味がないですよね。食品添加物が無かったら、その分輸送や保存コストがおそろしく嵩んで経済が成り立たないんじゃないかと。農薬だって、使わなかったら多分人口に対して必要な分は生産できないんじゃないかと思います。

目次
第1章 健康情報番組のウソ
第2章 黒か白かは単純すぎる
第3章 フードファディズムの世界へようこそ
第4章 警鐘報道をしたがる人びと
第5章 添加物バッシングの罪
第6章 自然志向の罠
第7章 「昔はよかった」の過ち
第8章 ニセ科学に騙されるな
第9章 ウソつき科学者を見破れ
第10章 政治経済に翻弄される科学
第11章 科学報道を見破る十カ条

*1:その分コストも下がって価格も下がるだろうし。

読書2008_科学

物理のABC

新装版 物理のABC―光学から特殊相対論まで (ブルーバックス)

新装版 物理のABC―光学から特殊相対論まで (ブルーバックス)

前から気になってた疑問が2つ、解消されました。
1つは光の速さを測る実験方法。「気になっているけど特に調べもせずにいる疑問」の中の1つだったのですが、この本でその理屈が説明されていたので、すっきりしました。
もう1つは、ちょっと抽象的なお話です。「物質は光速を超えることはできない」という法則は、なぜ「証明されている」と言えるのか、という疑問から発して、物理学で言うところの「証明されている」とはどういう意味かという疑問をもっていました。*1
で、簡単に言えば「仮説から導きだされる推論が、膨大な観測や実験の結果と合致している」ということだと理解しました。数学の証明のように、論理的に覆しようがない、という意味の証明ではない。そういう意味では、反例が1つでも見つかれば覆る可能性があるものだということです。
ただし、「覆る」と言うとき、根本から覆るのか、特殊な条件下でのみ成り立たない場合がある、ということなのか、どちらを想定しているのか考える必要があります。また、「可能性がある」という言葉の意味も慎重に考えなければいけません。例に出した法則が根本的に覆ることを想定した場合、たしかに可能性は「ある」のですが、それは「ものすごく小さい」のです。
一般に「科学は絶対ではない」と言われるとき、この覆る可能性が誇張されているきらいがあります。もちろん科学は絶対ではありませんし、間違いうる。むしろ、間違いの積み重ねによって発展するものとも言えるわけです。だから、特に新しい知見であればあるほど、間違いを含んでいる可能性はあります。それでも、まず絶対に覆らないだろう事実、というのもまた存在するわけです。そのことはきちんと理解しておく必要があると思います。
ところで、今ここで書いた「証明されている」の意味は、自然科学の多くの分野で適用できるものだと思いますが、経済学での「証明されている」はどういう意味なのでしょうね。最近少し興味が出てきたので、気になっています。

その数学が戦略を決める

その数学が戦略を決める

その数学が戦略を決める

絶対計算の浸透と有効性について説明した本です。
絶対計算とは、一言で言えば、膨大なデータを分析し、それに基づいて様々な意思決定を行うこと、とでも言えるでしょうか。その分析が、一見関係無いように見える事柄の間に関係性を見出し、それにもとづく予測が、経験を積んだ専門家の意見よりも正しく未来を予測する。そういうことが各分野で起きていることが多くの事例とともに語られています。
この絶対計算を考える上でのポイントは、技術の発展によって膨大なデータを低いコストで集められるようになってきた、ということでしょう。分析手法も発展し、計算にかかるコストも小さくなってきているでしょうが、データがないことには話になりません。絶対計算の発展の背景として、インターネットをはじめとする技術群が社会のありようを変え、ある部分では、ほとんど自動的にデータが集まるようにさえなっているという事実が大きいでしょう。逆に言えば、データ収集のコストがまだ高い分野では、絶対計算の出番もまだあまりないかもしれません。
絶対計算を用いるためには、何をするために、どんなデータを集め、分析し、その結果をどう読むのか、というところが重要でしょう。いくら関係の見えないところに関係を見出す(ことが多い)のが絶対計算だとは言え、プロ野球のペナントの行方を予測するために、100年間の気候データを分析しても、多分役には立ちません。適切な目的設定と分析設計が肝だと思われます。
あと、もうひとつ。本書でもとりあげられていますが、感情の問題も指摘しておくべきでしょうね。人の命に関わる医療の分野や、様々な立場の人の利害が絡み合う政治的な問題について、意思決定のために絶対計算をもちいることには抵抗が大きいでしょう。理屈では計算に従った方が期待値が大きいと知っていても、自分やその身の回りの生命や利害が関係してくると、どうしても慎重にならざるを得ません。計算によって示唆される行動が直感に逆らうものだとしたら、なおさらです。こういう分野については、社会的な合意が形成されるまで、時間がかかるでしょう。

生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

読む前の予想に反して、学問の世界のエピソード部分が多く、読み物としておもしろく読めるようになっていました。そういう読み物として読むと、全体のトーンとしてちょっと感傷的すぎないか、という感想を持ちました。まあ、ここらへんは好みの問題かもしれません。
啓蒙書としては、生命とはどういう現象なのかというテーマに対して、とても示唆に富む本でした。

*1:法則自体を疑っていたわけではありません。あくまで、どういう理屈でそれが「証明されている」と言えるのか、ということがいまひとつ腑に落ちてなかったのです。あ、でも、この本に以下で書くような内容が説明されているわけではないですよ。あくまで私の中で考えていたことが、本の内容に刺激されて自分なりに納得できる結論に落ち着いた、ということです。

読書2008_フィクション

2008年に読んだフィクションの中で、印象に残ったのはこの2冊。2冊ともまっとうなSFです。

虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

これはホントにすごい作品です。とてもリアリティのあるエンタテイメント。
いろいろ思うところはあるのですが、事前に余計な情報をもたずに読んで欲しいので、感想を書くのがためらわれますね。と言って、ネタバレするとおもしろさが失せてしまう、ある種のミステリみたいな本というわけではないです。

太陽の簒奪者

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

真っ向勝負のハードSF。
地球外知的生命体がいたとして、かつ、それらとコンタクトすることができたとしても、コミュニケート可能とは限らないよなぁ。それどころか、まず生命という概念を適用できる存在なのか、ってあたりから怪しいよなぁ。なんてことをぼんやりと考えましたよ。

読書2008_経済とか

経済

カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本

カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本 日本経済編

カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本 日本経済編

カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本 世界経済編

カリスマ受験講師細野真宏の経済のニュースがよくわかる本 世界経済編

とりあえず、ニュースで出てくるような言葉の意味を知っておく、というレベルで分かりやすかったです。

ヤバい経済学

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ネタとしておもしろかったのはこちら。あ、ネタといっても内容がトンデモとかいう話じゃなくて、扱ってるテーマ自体がネタ的*1だという話です。こういう、ある種身も蓋もない分析の話って、好きです。個人的には相撲の八百長の話がおもしろかったです。

行動経済学 経済は「感情」で動いている

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

なんか、行動経済学が発展すると社会心理学でやることなくなっちゃうんじゃないかとか思いましたよ。

投資

お金は銀行に預けるな/ウォール街のランダム・ウォーカー

お金は銀行に預けるな   金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理

投資とか資産運用とか、まるっきり知らない分野だったので、オーソドックスぽいところから何冊か読んでみました。
お金は銀行に預けるな」は基本的な考え方をざくっとつかむのに良いと思います。「ランダム・ウォーカー」は株式市場の歴史から具体的な戦略まで詳しく書かれており、読み応えがありました。

会計

会計のことが面白いほどわかる本

ついでに会計もここで書いちゃいましょう。

会計のことが面白いほどわかる本 会計の基本の基本編

会計のことが面白いほどわかる本 会計の基本の基本編

会計のことが面白いほどわかる本 新会計基準の理解編

会計のことが面白いほどわかる本 新会計基準の理解編

分かりやすくて良かったです。が、この本を読んだだけで理解するのは難しいかもしれません。問題を解きつつ、その背景の理屈を理解するために読むのに向いている本だと思います。
まあ、単に私が、簿記の勉強をしているときに平行して読んだ、ってだけの話なのですが。でも、おかげで理解も深まったし、悪くなかったですよ。

*1:人工中絶合法化と犯罪率の関係の話とか、重いテーマもありますが。