江戸は遠く…

杉浦日向子の江戸塾

杉浦日向子さんが亡くなって、もうすぐ1年ですね。
だからと言うわけでもなく、昨日本屋でたまたま見かけたので買ってみました。

杉浦日向子の江戸塾 (PHP文庫)

杉浦日向子の江戸塾 (PHP文庫)

大学卒業後、特に社会人になってからはこういう"文化系"の本はあまり読まなくなっていました。
ですが、久しぶりに読んだこの本はとても良かったです。
つい引き込まれてしまい、深夜2時までかかって読み通しちゃいましたw


この本の各所に顔を出す"現代では失われてしまった過去の美点への懐古"とそこから来る"現代に対する批判的な視線"みたいなものって、実はあまり好きじゃありません。それらに対して"美しい"という感覚はもちますし、それらに対する憧れみたいな感情も理解できるのですけどね。
ただまあ、その時代にはその時代の世知辛さがあっただろうし、現代にも現代なりの"美"があると信じている(もしくは信じたい)ので。


じゃあ、この本の何が良かったのかと言うと、当時の江戸の生活が浮かび上がってくるように感じられるのですね。
対談集なのも良いのかもしれません。
対話の中で、一つ一つは本当に細かなことだったりするのですが、江戸の風俗が語られる。そうすると当時の生活が見えてくるような気分になるのです。
そして"ああ、この人、ホントに江戸が好きなんだなぁ"なんて感じられて、つい引き込まれてしまう。


早世されたのが、実に惜しまれます。
この本の巻末に宮部みゆきさんが「文庫化に寄せて」という文章を書かれており、その中の一文にこうあります。

師匠*1は江戸におられる―江戸の町こそが、本来お住まいになる場所だった。

私もそう信じて、遠いかの地での杉浦さんのご幸福を祈ります。

*1:鳶注:杉浦さんのこと。